国家について考える

国家の生成と発展と崩壊について考えます

農耕の開始の条件

○農耕の開始の条件
 国家が形成されるための前提条件は農耕が開始され、富が蓄積され、労働力を利用できるようになることである。そのためには採集漁労活動から農耕活動に生産体制が移行しなければならない。そのための五つの要因が示される。
 第一の要因は「入手可能な自然資源(とくに動物資源)が徐々に減少し、狩猟採集生活に必要な動植物の確保が次第に難しくなった」(ジャレッド・ダイヤモンド『銃・病原菌・鉄』上巻159ページ)ことである。
 第二の要因は、この時点において「栽培化可能な野生種が増えたことで作物の栽培がより見返りのあるものになったこと」(同)である。
 第三の要因は「食料生産に必要な技術、つまり自然の実りを刈り入れ、加工し、貯蔵する技術が次第に発達し、食料生産のノウハウとして蓄積されていたこと」(同書160ページ)である。
 第四の要因は「人口密度の増加と食料生産の増加との関係」(同)であり、人口が増加したから食料を生産するようになったのか、食料を生産するようになったので人口が増加したのかのどちらであるかは明らかではない。
 これらの四つの要因を考察することで、メソポタミアの肥沃な三日月地帯で食料生産が始まったのが紀元8500年頃である理由が示される。それ以前であれば狩猟可能な哺乳類がたくさん生息していたし、野生の穀物類はそれほど豊富ではなかったし、食料生産の技術も発明されていなかったし、人口密度は低かったのである。
 第五の要因は「狩猟採集民と食料生産者が接触する地域で最も決定的な役割を果たしたもの」(同書162ページ)であり、場合によっては狩猟採集民は食糧生産者から追い出されてしまうか、食料を生産する生活に移行して生き延びるかのどちらかであった。